◆約束 32



2022.12.14
どうか間に合ってくれ、神にも縋る思いで俺は車を飛ばした。
すべての謎が解けた。
白鳥遥は牧野つくしだ。
山荘は事故以来閉鎖にしていたが、建物はそのまま残してあった。
山荘に到着すると門扉には白鳥の車が停まっていた。
俺は門扉を突っ切り山荘の庭に車を乗り捨てあの崖へと走った。
茂みの奥から遥の声がはっきり聞こえる。
草木を分け入り走った先に、二人の姿を捉えた。
司「牧野――!」
俺が叫ぶのと同時に遥が牧野の胸を思いっきり突き飛ばした。
あっ!牧野はバランスを崩し、崖から足を踏み外し滑り落ちた。
牧野が突き飛ばされた瞬間、俺は飛び出し遥を押し退けスライディングするように牧野の腕を掴んだ。
すべてが一瞬の出来事
そして今のこの状況は12年前と全く同じ状態だ。
両手で牧野の腕を掴み俺は必至に牧野を引き上げようとしている。
あの時と同じように掌に汗を掻き手が滑る・・・あぁ、、もうダメ・・・・・じゃねぇ。
俺は12年前とは違う。
強靭な肉体に成長した立派な男だ、華奢な牧野を引き上げるだけの腕力は十分にある。
俺は腕に力を入れ牧野を引き上げようとした時、
後ろに倒れていた遥が起き上がり片手に棒切れを持ち、牧野の体を叩きだした。
“バシッ、バシッン、バシッ・・・”
「落ちろー、早く落ちろー、落ちろよ・・・」
鬼の形相で牧野を殴り続ける。
殴られた衝撃で牧野の体が大きく揺れる。
司「やめろー 頼むから止めてくれ!」
心から叫んだ。今の俺には叫ぶことしかできねぇ。
遥「司こそやめて!牧野さんの手を今すぐ離して、この人は助けるに値しない人よ。
この女は私をここから突き落とそうと襲ってきたの、
だから私は自分の身を守るためにこの人を突き飛ばした、これは正当防衛よ。
司には心配かけたくなかったから今まで黙っていたけど、
帰国してからずっと牧野さんには付き纏われ、嫌がらせを受けてきたの。
だから今日、この場所で司と私の間に昔何があったのか・・・私たちの絆の深さを知って貰おうと、ここへ連れて来たのよ。
それなのに司と私の関係に嫉妬して、逆上した彼女が急に襲い掛かって来たの。
ここでこの女を殺しておかないと、また何度でも私に危害を加えてくるわ。
私、この人が怖い。牧野さんが生きている限り私はこれからもずっと怯えて暮らすことになるのよ。」
金切り声をあげる。
クソっ、さっきの衝撃で牧野を支えていた腕の位置がズレちまった・・・あのままだったら引き上げられたのに・・・もう一度腕を持ち直すことができれば引き上げられるんだが・・・この体制では・・・・
俺は牧野を引き上げることだけを考えていた。どうしたらいい?もう時間がねぇ・・・
もし手を放したらこいつはまた俺の前からいなくなる・・・牧野を失うことは俺を失うことだ。
俺は両手に再度力を籠め牧野の腕を握り絞めるが・・・次第に腕の感覚がなくなってきた。
小刻みに震えだした腕・・・うぅぅ、、手が痺れて自分の手じゃないみたいに感触が無い。
嫌な汗が体にへばり付いてくる
牧野は弱々しい声で言う、
つ「道明寺、手を放して、あたしは大丈夫だから」
あの時の遥だ・・・遥の顔と牧野の顔がダブって見えた・・・
クソっ、あぁぁ、もう限界だ・・・・
今の俺にできることはただ1つ。
もうあのときの過ちは繰り返さない。
俺はもう二度と遥の手を離さない。
限界の時、
最後の力を振り絞り俺は牧野と一緒に谷底へ落ちた。
空中で牧野を引き寄せ、俺の腕の中に牧野をしまい、体で遥を包み込むように抱きしめながら、
一つの塊になり俺たちは崖の底へと落ちていった。
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