◆約束 25



2022.12.07
司「遥は俺が小等部へ入学する前までいつも一緒に遊んでいた幼馴染だ。
あいつは俺の陽だまりだった。
親は仕事、仕事で邸にも寄り付かない、年に1、2度顔を合わせればいいほうだ。
そのくせ誘拐等の犯罪を危惧して、がっちりSPなんか張り付けやがって、
どこへ行くにも、でけぇ男たちに囲まれて俺には自由もプライベートも全くなかった。
与えられたスケジュールを分刻みにこなし、教養、作法,護身術を身につけていく毎日。
やりたくもねぇことばかりやらされる中、遥に会えることだけが俺の安らぎだった。
遥の家とは家族ぐるみの付き合いでお互いの邸を行き来する公認の仲だ。
遥はママごと遊びなんかが好きでよぉ~
いつも人形を使い、俺がパパ役で、遥がママ、人形が子供役で遊んでたんだ、
人形のこと『さとちゃん』って名前つけて・・・
あまりに人形がボロボロになってたんで、俺がニューヨークの両親の元へ行ったとき、
土産に新しい人形を買ってきてやったんだ。
あいつ凄く喜んで、それからは肌身離さず持ち歩いてたっけな。」
司は遠くを見つめ話を続ける。
司「俺が5歳の夏、遥を連れて那須にある俺の別荘に避暑を兼ね1か月ほど遊びにいったんだ。
山荘は東京より空気が澄んでいて夏でも朝はエアコンがいらねぇほど涼しく過ごしやすい。
俺たちは一緒に学びたくさん遊んだ。
毎日、かくれんぼをしたり、追いかけっこをしたり、ママごとをしたり・・・
あいつが隣にいるだけで何をしてても、ずげぇ~楽しいんだよ。
雨が降り続き外へ出られない時があってな、その時は室内でお勉強三昧だったから、
2日ぶりに快晴になった日は、あいつ大はしゃぎで庭に出て、強制的にママごとやらされたよ。
いつものように俺がパパ役で遥がママ、人形が子供。
『ちゃとちゃんとおかいものにいってきましゅ。
パパはいいこでおるしゅばんしててくだちゃい。』
『あい』とか言ってさ、
遥はさとちゃんと一緒に買い物へと、茂みの中へ入って行ったんだ
15分ほど経っても遥が帰ってこないから、
俺は『はるかー』と声を掛けながら、あいつが進んでいった茂みの中へ入った。
耳を澄ますと微かに声が聞こえる、
『つかちゃー、つかちゃー』
俺は声のする方へ草を掻き分け20mほど走った。
木々が生い茂る、しげみの先は切り立った崖になっていて、
遥はそこから足を滑らせたのか、突き出た岩にしがみ付いていた。
『つかちゃ、たちゅけて、ちゃとちゃん、た、たちゅけ、たら、あ、あたち、、おちちった・・・』
遥は今にも落ちそうだ。
俺は遥の手を両手で掴み、
『タマー、タマー』と大声で助けを呼んだ。
数人のSPとタマが走ってくるが、俺の手もすでに限界だった。
互いの手が汗ばみ滑り落ちそうになる、腕がちぎれそうに痛い。
『はるか、がんばれタマたちがいまくる。』
俺は真っ赤な顔をしながら歯を食いしばり、
もう一度遥の手を強く握ろうと力を入れたと同時に、
駆け付けたSPが遥と俺を引き上げようとした瞬間、
スルっと遥の手が俺の手から滑り落ちた。
『あぁぁぁーーーーー』
俺は慌ててその手をもう一度掴もうと必死に藻掻いたが、
その手は空を切り、遥は谷底へと落ちていった。
俺は落ちていく遥の顔が今でも忘れられない・・・・悲しそうな・・・俺に見捨てられたようなあの表情。
俺があの時手を放さなければ遥は落ちなかった・・・俺が遥を落としたんだ・・・・
遥は数日後、崖の下を流れる川の1キロ先の下流で無事発見された。
前日まで小雨が降っていて水笠が増していたのが良かったのか、
奇跡的に一命を取り止めたが全身打撲、脊髄損傷の重傷を負いそのまま入院してしまった。
遥の病室は面会謝絶になり、それから俺は遥の顔を1度も見ることなく、
彼女はドイツの有名な専門医の下、治療をすることが決まり、
家族でドイツへ旅立っていった。」
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